ネット通販ワイシャツ専門店「ozie[オジエ]」(運営:株式会社柳田織物、本社:東京都港区、代表取締役:柳田 敏正)は、六本木ショールームを2014年6月にオープン以来、年間売上が130%前後アップいたしました。
2002年からeコマース(電子商取引。以下ECと記載)のみで小売を行ってきた「ozie[オジエ]」がオムニチャネルの一環でリアル接点をオープンしたことで、EC部門でも売上が成長しています。
目次
1. 結論
2. オープンに至るまでの経緯
3. ショールームの運営コンセプト
4. コンセプトに基づいてどう運営したか?その結果。
5. 総評
1.結論
既存のリアル店舗の既成概念や業界の常識を覆して考えれば、コストをかけずに継続してリアル接点の運用をしながら、ECとの相乗効果で実績に結び付けていくことが可能
1. ショールームの売上予算は0円
2. ショールームオープンによる新たな採用0名
3. 来店された方の7割強がいずれかの形で購入。リピート注文はネットから購入。
4. リアル店舗あるまじき営業スケジュールでの運営
5. エンドレスアイル(終わりなき通路)を活用。
バリエーションが多いECショップの特性を活かしたサービスを行える。
2.オープンに至るまでの経緯
衣類をネットショップで購入する際の不安な要素として挙げられるのがサイズ感・素材感がわかりづらいこと。
ECのみで2002年からワイシャツを販売し、形・色・サイズの組み合わせで、現在6,000種類以上のシャツやネクタイ等の服飾雑貨を取り扱う当店でもそれは例外ではなく、お客様から「直接手に取って見たり、試着ができるような店舗はないのですか?」というお問い合わせを2005年くらいから継続的に数多く頂戴していました。
しかし当社の全商品をショップに陳列して販売するには膨大なスペースが必要となるだけでなく、人件費面でもコストのかかるリアル店舗運営を当時は考えもしませんでした
。
リアル接点を考えるきっかけとなったのは、2012年に知ったEC専業のアメリカのアパレルブランドBONOBOSの事例。
BONOBOSが運営するガイドショップ※1 というショールーム形式のリアル接点の話を人づてに聞き、いずれozie│オジエでもやってみたいとこのとき思いました。
時は流れ1年後、事務所の移転を考える際にBONOBOSのことを思い出し、事務所併設でショールームを運営できないかと考える。
そして2014年1月に江東区から六本木に事務所を移転し、その半分をショールームスペースとして6月にオープンさせました※2。
3.ショールームの運営コンセプト
コンセプトは ”モノを売らずに体験してもらう” & ”継続するにはどうしたらいいか?”
【理由】
ozie│オジエはネット上でシャツを探しているユーザーには多少なりとも認知度があるが、アパレルブランドという大きなカテゴリーでみれば知名度がないに等しいブランド。
よって一等地に路面店をオープンするといった、コストのかかるマス・マーケティングの観点ではなく、ozie│オジエをネットで知って購入してみたいけどサイズや生地感がわからないから購入できない見込み客に焦点を当てた、パーソナルな方向に集中することを考えました。
よって”モノを売らずに体験してもらう”というコンセプトに基づき、見て触って試着してもらい、ozie│オジエのシャツを体験してもらうショールームという形態がベストと考えたことが一つ。
しかしながらリアル店舗を出店してコストと収益のバランスが悪く撤退する事例が多い中、”モノを売らずに体験してもらう” というコンセプトの基にどうやって運営を継続していくかが大事だと考えたことが一つです。
この2つをコンセプトにすえたとき、次の面をどうクリアして続けていくかを考えました。
1)どこにショールームを出店するか?
2)ショールームの運営スタッフをどうするか?
3)どうやったら来店してくださるか?
4)営業時間をどうするか?
5)6000SKUにものぼるバリエーションをどう網羅するか?
それには既存のリアル店舗の既成概念や業界の常識を覆して考える必要がありました。
4.コンセプトに基づいてどう運営したか?その結果
1)どこにショールームを出店するか?
場所は六本木一丁目駅目の前の徒歩1分かからない築30年強の雑居ビルの8階。
前述のとおり90uのスペースを、半分事務所・半分ショールームという形でオープン。
駅近でビルの8階、事務所併設ということに意味があります。
【結果】売上予算なし
ショールームを考えるにあたり、立地面で譲れない条件の一つに”交通の便がいい駅の近く”という点。
なぜならば駅近であれば、お客様に来店していただきやすくなると考えたからです。
もう一つは駅近で築年数の古い雑居ビルの2階以上にある賃貸スペースの半分を事務所、半分をショールームスペースとして使用できるという点。
なぜならば築年数の古さや8階という小売に適さない諸条件から、賃料が下がる=事務所だけで考えてもやっていける賃料であるであろうと考えたからです。
これらを踏まえて条件にあった今のスペースを見つけたことにより、体験をメインに=ショールームの売上を考えなくてよい運営を考えることができるようになりました。
結果ショールームに売上予算はありません。
よって”モノを売らずに体験してもらう”というコンセプトを基に、売らなくていい・買ってもらわなくてもいい接客を、を合言葉にお客様と接しています。
(ですが購入したいというお客様には当然ですがご購入いただいています。)
ビルの8階ということでショールームの中がわかりづらく、入店しづらい不安要素を少しでも和らげるべく、Googleストリートビュー(インドアビュー)を導入。ショールーム内をWEB上から360度ご覧いただけるよう工夫をしています。
2)ショールームの運営スタッフをどうするか?
現状ショールームの接客専門スタッフはおりません。
来店された際の接客は、事務所にいるECに従事するスタッフが兼務して行っています。
【結果】ショールームオープンによる新たな採用0名=人員増によるコストアップは0円
現状ビルの1階にショールームがあることの宣伝や告知は一切行っていません。
理由は前述のとおり、ozie│オジエのことを知っている見込み客に焦点を当てているからです。
なので基本ホームページでショールームの存在をわかっていないと来店できない仕組みになっています。
よって1年8ヶ月運営して来店組数はたったの400組前後。少ないですが、前述のとおりマス向けのスペースではなく、見込み客の方々にお越しいただきたいので、狙い通りです。
そしてこのことからショールームの接客専門スタッフが必要ありません。
ECに従事しているスタッフは常日頃より電話やメールでお客様と接しているため、専門性や接客に関して優れたスタッフばかり。
現状は一見さんが入ってこれない=いらしていただける見込み客に時間をかけてゆっくり接客してozieの世界観を体験してもらうよう心がけています。
3)どうやったら来店してくださるか?
来店されるお客様はいままでECで洋服を買ったことがない人が大半です。
衣類に関しては見たり触ったり着たりしないと購入できないというお客様ばかりです。
【結果】来店されて見て試着して満足するといずれかの形(リアルかネット)で購入。
次からはネットで購入。2回ショールームに足を運ばれる方はほとんどいない。
ショールームにいらっしゃる方の大半は前述のとおりozie│オジエのホームページを見て来店される見込み客。
その大半はサイズや生地感の問題から、衣類をネットで購入されたことのない方々ばかりです。
しかしozie│オジエのホームページに検索経由(お客様によって検索キーワードは異なる)でひとたび入ると、品数・バリエーションの多さに見入ってしまい、見れば見るほど購入したい衝動に駆られるとおっしゃる方が多いです。
そこで実際に見たり試着したりしなくては購入できい見込み客の方は時間を作って来店し、試着や商品を確認。(ショールームには全サイズの試着用シャツと、直近1〜2ヶ月内に販売し在庫がある商品のMサイズを展示しています。)
その場ですぐネット注文されたり、ご自宅に帰られてからネット経由で注文される方が来店されたうちの7割強にのぼります。
サイズや質感がわかり、納得され、ご購入された方は次回以降ネットから購入されます。
基本複数回ショールームに足を運ばれる方はほとんどいらっしゃいません。
ショールームで商品やサイズ確認→次回からネットで購入のこのシステムは素晴らしいとおっしゃっていただけることが多いです。
来店者の大半は関東からだが、出張ついでに北は北海道、南は福岡からといったように全国からお越しくださっています。
来店時にお客様から記入していただきましたアンケートや、接客後にスタッフが記入している来店履歴からデータを一部ピックアップしてみました。
▼来店された方の購入方法〜購入率は来店者総数の7割強
(有効データ数237名)
- 見込み客に来店者を絞っていることもあり、購入率は来店者総数の7割強。
その場で購入される方が8割以上と圧倒的に多いが、後日インターネットから注文される方が1割強いるのも特徴。
一度体験できれば、インターネット上で豊富な品揃えの中からじっくり選ぶことができる。
▼来店年代〜ショールームに来店される方は30代が中心
(有効データ361名)
アンケートとスタッフの予想の合算値で計算。スタッフの予想とは目視による予想の計測です。
- ozie│オジエ全体の中心顧客層は40代ですが、ショールームに来店される方は30代が中心。
年代が若い方がECに抵抗がないイメージがありますが、30代の来店者比率の高さを考えると、リアル接点の重要度が推し量れます。
▼来店されて購入された方の合計購入回数〜体験を通じてコアなファンに
(有効データ246名)
来店された方がその後ECや再訪問で購入された合計回数
- リピート率は3割と、ozie│オジエ全体のリピート率の5割強より低いものの、体験を通してコアなファンが増えているのが特徴。 体験を通じて安心度が上がることにより、購入しやすいECとの相乗効果も相成って、購入回数が増えていると思われる。
4)営業時間をどうするか?
新たな採用無しで年中無休で夜遅くまでの営業は事実上不可能。
【結果】ショールームの営業は基本平日11時〜17時まで。月に2〜3日に土日祝を臨時オープン。
リアル店舗あるまじき営業スケジュール。
しかし無理なくショールームとして営業していくうえで行ったこと。
いままでこの営業時間でクレームになったことはない。
5)6000SKU(最小管理単位)にものぼるバリエーションをどう網羅するか?
ozieには色サイズの最小管理単位(SKU)で6000種類ほどアイテムがある。
リアル店舗でこれらをすべて閲覧できるようにするのは非常に難しい。
これらをどうやってご紹介、ご覧いただけるようにするか?
【結果】取り寄せサービス
ozieのSKUは6000前後。
全商品全サイズをショールームにおくことは到底不可能。
そこで外注先の物流と手を組んでエンドレスアイル(終わりなき通路)を活用。
見てみたい、試着してみたい商品の色・サイズを連絡・予約していただければ、最短で翌日ご覧いただけるよう物流から取り寄せるサービスを行っている。
バリエーションが多いECショップの特性を活かしたサービスを行っている。
総評
見込み客に体験を通じて購入への選択肢を増やしファンになってもらうのに、ショールームは有効。
EC中心の企業において、特にアパレルの場合は商品を実際に触ってもらう・着てもらうといった体験を通しての販売活動は、物余りの時代に突入しつつある日本では、顧客に選んでもらうという視点から非常に重要なタッチポイントの一つであるといえます。
またカスタマージャーニー(顧客の旅。購入や登録までのプロセス。)が言われて久しい中でも同様にリアルでのチャネルは重要です。
しかしながらコストパフォーマンスに長けたEC中心の企業、とりわけ中小企業はリアル接点といったコストや手間のかかるチャネルの構築には積極的ではないような印象が見受けられます。
既存のリアル店舗の既成概念や業界の常識を覆して、コストをかけないリアル接点の運営方法を考え継続することにより、インターネットで調べ物はするけど商品を積極的に購入しない顧客に対して存在をアピールすることが中小企業でも可能です。
そして体験を通じてネットで購入するという経験に結びつけることができれば、次回からはネットで購入していただくことが可能になります。
2014年度のファッションにおけるEC化率は8.11%とまだまだ低く、ECでの実績を伸ばしていく上でリアルとの融合が欠かせないといえると思います。
これに関してはアパレルに限らないと思います。
継続して運営し続けている中、ショールームをオープンして1年強たった2015年10月以降は運営の効果が出始めたこともあってか、小売全体の売上・営業利益ともに前年比130%前後の実績で推移しています。
工夫を重ねてコストを下げつつリアル接点の構築し、顧客接点を増やすことでの業績アップの挑戦に、これらの実例を参考にしていただければ幸いです。
※1 BONOBOSのガイドショップとは?
//blog.livedoor.jp/usretail/archives/51859288.html
※2 ショールームショップ オープンのプレスリリース
https://www.ozie.co.jp/company/press/20140612.html
※3出典元 平成26年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備 (電子商取引に関する市場調査) 経済産業省
//www.meti.go.jp/english/press/2015/pdf/0529_02a.pdf